絵本を通じて吃音を知ってもらいたい

最終更新: 2019年12月6日

絵本作家

わたなべ あやさん

自身の吃音経験を夫が絵本に。

なぜ、絵本にしたのか。そして、あやさんが絵本を通して伝えたいこととは。

2017.02.25

吃音を自覚したのは、小学校3年生の終わりくらいのとき。

それまでは自覚していなかったが、当時の担任の先生が母親に話したことをきっかけに、自分の話し方が変わっていることに気づいたという。

学生時代、アルバイトをしたことがなかった。

「どもるので、電話はできないし、面接も自信がありませんでした。でも、短大の卒業が近づいて、就職はできなくても、バイトはしないとって思って、先生が紹介してくれたギャラリーでアルバイトを始めました。

全く電話が取れないし、パソコンもできなくて、3日でクビになり、すごく落ち込みました。

その後に、別の先生が新しいバイトを紹介してくださった。

そこの社長は、言葉で言ったことはなかったのですが、私の吃音を受け入れてくれていました。その方は、「技術があって、真面目ならいい」という考えをもっておられました。

電話に出ると、会社名が長いのでほぼ毎回失敗するのですが、そのことで怒られた事は一度もありませんでした。デザイン事務所で写植を貼る仕事だったので、文字の失敗は注意されましたけど。

今になって思うのですが、対人関係において、吃音がフィルターになっている気がします。

身勝手な言い方かもしれませんが、吃音を受け入れてくれる方なら一緒に仕事をしても安心というか・・・どちらかというと、そういう他人の弱い部分を受け入れられる人と、時間を過ごしていきたいと思います。

逆にどもっていることを受け入れられない方とは、私が吃音でなくても合わないのかもしれません。」


就職活動の挫折から一心発起、絵本作家の道へ

「短大でデザインを学んでいましたし、自分がデザインしたキャラクターが文房具などのグッズに商品化されて、世に出て行ったら素敵だなと思って、数社受けました。

一番いきたかった会社の就職試験では、まず、履歴書と作品の審査がありました。

そして二次試験は、キャラクターデザインの実技試験があり、三次試験は役員面接というものでした。その面接で、喋ることができなくて、落ちました。

次の年も挑戦したのですが、やはり、三次試験の面接で喋れず、諦めるしかありませんでした。

2年連続面接で落ちたので「ダメなんだな」って、その時はっきり分かりました。

キャラクターデザインの仕事をするという夢を諦めた時、1年生の時に恩師が、「絵本作家になったら」と勧めてくれたことを思い出しました。

絵本作家になって食べて行くのは簡単ではないとは思いましたが、2年連続で面接に落ちた現実を考えると、生きていく術がそこにしか見えなかったので、突き進むしかないと決心しました。

絵本制作を本格的に学ぶため、絵本教室に通った。

「その教室の講師が、フリーの編集者をしていて、授業で作ったラフを出版社に持ち込んでくれたところ、出版が決まりました。

たまたま、その方が創刊される月刊誌の作家を探していたという幸運もあり、そこでの掲載が決まって、デビュ—することができたんです。それが、24歳の時です。

その次も、同じ月刊誌で描いてほしいという依頼を頂いて、月刊誌仕様に描いたのですが、「話が面白いから、単行本にしたら?」と言われて、単行本を出すことになりました。(それは『なっとうぼうや』[学研プラス]という絵本で、今では電子書籍で読むことができます)。

いつかは単行本で絵本を出版したいと思っていたので、本当に嬉しかったです。」



きっかけは15歳の女の子 吃音体験を絵本に

「短大の卒業制作で、吃音に関する作品を初めてつくりました。

元々、卒業制作は絵本を作ろうと決めていたのですが、内容を考えていたとき、当時、通っていた国立リハビリテーションセンターの担当の先生から、私と同じように吃音で苦しんでいる15歳の女の子がいることを聞いて、その子と会ってみないかと話をもちかけられました。

その子と初めて会った時に、彼女を励ます絵本を作りたいと思ったんです。そして、伝えたいことを込めた絵本をつくりました。その絵本を次に会った時に渡したところ、とても喜んでくれました。それが、私の中でも忘れられない出来事になりました。

また、当時、担当の先生からイラストも頼まれて、それで描いたものが『吃音検査法』の検査図です。」


全ての検査図を作成した

『吃音検査法 第2版 検査図版』(小澤恵美・原由紀・鈴木夏枝・森山晴之・大橋由紀江・餅田亜希子・坂田善政・酒井奈緒美 著/学苑社)


最後のページには、この絵本を読んだ人に宛てた手紙が綴じられている。

『あかちゃんは、生まれる前に・・・』



夫の木谷(きだに)氏により、自身の体験をもとにした“るいちゃんのけっこんしき”が発行される。

「元々、mixiで吃音に関するブログをつけていました。

私のブログを読んだ夫が、「いい話だから」と、それを元にして、8年前、紙芝居にしていたんです。

夫は美術家で、私と同じく絵本の出版経験があるのですが、「絵本にして出版すれば、もっと多くの人に読んでもらえるんじゃないか」って2016年のお正月に夫婦で話しました。そこから、構成したり、ラフを描いたりして、彼が絵本として出してくれました。

絵本に出てくる幼馴染のるいちゃんに、絵本の制作を話したところ、応援してくれて、結婚式の時のビデオを貸してくれたり、絵のラフを見てもらってアドバイスをもらったり・・・るいちゃんともこの絵本を作ったという感じがします。

完成したとき、とても喜んでくれました。」



『るいちゃんのけっこんしき どもってもつたえたいこと』(作・きだにやすのり 絵・木谷アンケン/学苑社)






絵本では、小学生時代の出来事と、その時の気持ちが、リアルに描かれている。

そして、終盤では、大人になったあやちゃんが幼馴染のるいちゃんの結婚式でスピーチをする。

「実際のスピーチは、絵本で描かれている通りですが、違っている部分もあります。

実は、夫も一緒にるいちゃんの結婚式に招待されていました。

スピーチで私がどもってパニックになっている中、隣で夫が一生懸命フォローしてくれました。そんな夫の事も、るいちゃんはとても嬉しかったんだと、絵のラフを見せた時に話してくれました。

絵本をづくりを通して、あの時のるいちゃんの気持ちを、改めて知る事ができたことも、嬉しかったですね。」

絵本をつくり続けていくこと、そして、吃音のことを広く知ってもらうことが目標と話す。

「この絵本を、吃音がある子どもたちはもちろん、吃音のことを知らない子たちにも読んでもらいたいです。

吃音を知っているか、知らないかで、吃音者への接し方は大きく違うと思います。

知らないまま、ある日突然出会うと、驚いちゃって、意図せず相手を傷つける言動をしてしまうことは、しょうがない部分があると思います。まずは知ってもらって、受け入れられる土壌をつくっていきたい。

そして、吃音のある人たちへの接し方が変わっていったらいいなと思います。」



◆Q&A

きつおん女子のみなさんへのメッセージ。

「吃音のため、余計に将来の不安が大きくなることはあると思います。「吃音があると就職できるのかな」とか・・私はできなかったのですけど、それでも別のところに道を見つけることができました。今でもしんどいことはありますが、吃音があっても、勇気をもって、できることを自分なりにして行くことが大事だと思っていますので、一緒に頑張りましょう!」

夫の木谷(きだに)さんが書かれたあとがきから、あやさんのことを理解して、サポートをされていることが伝わってきました。出会いを教えてください。(笑)

「絵本教室で出会いました。帰りの方向が同じなので、一緒に帰るのですが、その間、1時間話さないといけなかった。それが、親しくなるきっかけになりました。当初は、どもらないように話し方をコントロールしていたつもりでしたが、夫は最初から吃音に気づいていたそうです。けれど、一度も指摘されたことはありません。一緒に生活したり、仕事をしていますが、受け入れることができる人なのだと思います。」

なかなか一歩踏み出せないシャイなきつおん女子におすすめする出会いの方法を教えてください。

「そうですね・・趣味のワークショップとか、教室とか、共通した何かがあれば、吃音があっても、一緒に楽しめるので、そういう所に行くのがいいのかなって思います。私の経験からですけど・・・。」


わたなべ あや さん

絵本作家

2017年1月に自身の吃音体験に基づいた『るいちゃんのけっこんしき どもってもつたえたいこと』(学苑社)を夫の木谷(きだに)氏が発行。

プライベートでは、お子さんが通っている小学校で絵本の読み聞かせのボランティアに所属している。(現在はお休み中とのこと。)

家の整理整頓がお好きで、“ヘヤカツ”や“人生がときめく片づけの魔法”を実践。部屋が片付くと達成感があり、心がスッキリし、家族から「使いやすくなった」と言われることが嬉しいそう。

食べ物や動物のキャラクターが主人公の絵本を多数出版。




左上:『ショコラくんのおこさまランチ』(作・きだ にやすのり、絵・わたなべあや/教育画劇)

左下:『ごめんやさい』

右下:『かたづけやさーい』(共に絵・わたなべあや/ひかりのくに)

右上:『レッツゴーおべんとう!』(作・わたなべあや/白泉社)

©2019 by きつ女録

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